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まるで祭りのあとのようだ。というほど、私は祭りを知らなくて、むしろこの演奏会のほうが、もう7年目というキャリアがあることに、ふと気づいたりしています。
「N児」ことNHK東京児童合唱団の第48回定期演奏会が、無事2日間の公演を終えました。
団員の保護者として、保護者会の会長として、作家という表現者の端くれとして、すべての観点で私を満たしてくれたその演奏会は、きりりと引き締まったメリハリのあるプログラムで、それぞれに明確な余韻を残す演奏でした。なかでも曲そのものの魅力が際立った、第2ステージと第3ステージについて書き残しておこうと思います。

2ステは、小2〜4のジュニアクラスが、歴代のNHK全国学校音楽コンクールの課題曲から4曲を歌った「Nコン課題曲選集vol.2」。
作詞は、まど・みちお、神沢利子、工藤直子、森絵都という震えるメンバー。もちろん作曲も、三善晃、小林亜星、横山潤子、大田桜子というNコンならではの錚々たる顔ぶれ。
命の基本、生きる基本、いま、未来、地球、平和、そういったド真ん中をテーマとした4曲は、詩の展開に共通のロジックが見出せるようなストライクボール揃いで、ここ数年の課題曲にいささか奇をてらうカーブがかかっているのは、ここからの反発なのかなと思ったり。
選び抜かれた言葉たちは、曲がついて子どもたちが歌うことでみずみずしく響き、隣に座っていた詩人の友人に「子どもが歌ってどう聞こえるかまで計算されたような詩だね」と思わず囁いてしまったけれど、偉大なる詩人たちにそんな逆算は必要ないのかもしれない。
しかしそう感じるほど、小さな子どもたちの合唱が素晴らしかった! 言葉をどこまでも大切に届けてくれた。じつはレッスンを取材したときに、まさにそのための指導を先生がされていて、その成果がここまで出るのかと目を見張ったのです。ありがとう、子どもたち。

3ステは、小5〜中2のシニアクラスが歌った女声合唱曲集『妖精の市場』。
幻想的な世界を描いた4つの曲、そのまあ、なんと妖しいことか。詩も、メロディも。
いずれも作曲は横山潤子さん、詩はアメリカやイギリスで読み継がれてきたもので、作者はそれぞれ違うものの、「銀のくつをはいた月が ゆっくりしずかに夜をあゆ」んだり(1曲目)、「真っ黒な鐘楼で真夜中の鐘が鳴り 真っ白ながちょうが きつねのほえ声にふるえ」たりして(2曲目)、ひとつの幽玄な世界を創り上げていく。
4曲目に至っては「朝な夕な 娘たちの耳に小鬼の声が聞こえてくる 『おれたちの園のくだもの買いにおいでよ』」というのだが、「小鬼のくだものは 魔法のくだもの、一度食べたら忘れられない。食べれば食べるほど のどが渇くの。体はみるみるやせてゆくの」というから怖くてたまらない。巧みなメロディがまたそれを増長させている。
この曲集は難曲として知られていて、娘も最初に楽譜を見たとき「なんだこれって感じだった」と自分のインスタに書いていたけれど、その娘が次第にこの曲に惹かれていくのを、家で歌っている様子から窺い知ることができた。
おそらく娘だけではなかったのだろう。本番で、子どもたちは歌の世界に陶酔するのを超えて、その世界のなかで歌っていた。すでに向こう側のひとになっていた。その表情は思いのほか冷静で、どこか小鬼のようにも見えた。私は彼らの音楽を、見るように聴いた。そして泣いた。嗚呼なんと幸せな時間。

もちろん、1ステの「N児が選ぶ日本の歌50選より」では名曲の醍醐味を存分に味わうことができたし、4ステの「WE ARE THE WORLD」は黒人の悲劇と勇気の歴史をたどりながら、音楽の源泉であるブラックミュージックを説得力のある演出で聴かせる大ステージでした。

そして最後は、プログラムには記載されていなかった5ステ、ラグビーW杯の開会式でN児が歌った『WORLD IN UNION』。全団員が開会式と同じユニフォーム姿で、心揺さぶる圧巻のコーラスを聴かせたのは、サプライズの超スペシャルボーナストラックといっても、まだ言葉が足りません。

こんなに書いたのに、伝えきれていないもどかしさよ。年末にラジオで放送されるので、ぜひご自分の耳で確かめてみてください。

*写真は演奏会会場のオペラシティにて。

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